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たぬき

Tanuki

慶應元年(1865) 作曲:二代目 杵屋勝三郎


” 月に浮かれて腹鼓 ──

  打つやうつつの夢の世を ”



歌詞

〈本調子〉  それ伝へ聞く茂林寺の 分福茶釜のその由来 あやしくもまた面白き  昔々そのむかし 婆くった爺が狸汁 縁の下屋の骨までも  広尾の原の狸そば のびた鼻毛を頬かむり 狸長家を まはろまはろまはろ オオそそり節  山で寝る時ゃ木の根が枕 柴をしょったら気をつけろ 火の用心さっしゃりましょ  オヤ源さん 何処へ穴っぺいりをしておいでだえ もしちょっとお寄りナ  ヨセひどいことをするナ まだ背中のやけどがなほらねえア  お気の毒 ここに狸のあんぽん丹 呑んでくだまくエエなうまくさまんだばさらんだ  狸にござる法印さん 自体われらは田舎のうまれ 月に浮かれて腹鼓 打つやうつつの夢の世を  狸寝入りかア あら不思議や 忽ち広がる大金玉  八畳敷の爐にかけし 茶釜しっぽをオヤオヤオヤ ふりたてて狸ばやしの音につれて

〈二上り〉  或はかるわざ 綱わたり さてさてさてさて 此度のかるわざは 綱の半ばへ 金玉を引かけ 是を名づけてたんたん狸の 夢の枕ぢゃ おもしろ狸の角兵衛獅子  神変不思議の有様は 治まる御代のはなしぐさ 今もその名や残るらん 今もその名や残るらん


解説

元治元年(1864)2世杵屋勝三郎の作曲です。 これは、別名「昔噺狸」とあるように「タヌキ尽くし」とでもいうもので、文福茶釜やかちかち山などの話をベースにして江戸のユーモア、といってもかなり下品ではありますが、それを盛り込んだストーリーとなっています。

麻布の広尾には、現在でもソビエト大使館のある「狸穴」(まみあな)という地名が残るように、昔はあの辺りは結構狸が出没していたようです。また、天現寺あたりには「広尾の原のタヌキ蕎麦」があったともいわれています。

勝三郎はこの前後に時雨西行を発表していますが、同じ作曲者とは思えないほどこの曲では奇抜な発想をしております。つまり、この曲は、正座で鑑賞するといった内容のものではなく、気楽に聴くものでしょう。

新内流しの三味線にかぶせて、浄瑠璃風のセリフが入ります。 「たんたんタヌキの夢の枕で」と邯鄲の夢にかけており、ほんの一瞬の夢と悟るというものです。「治まる御代」とは討幕のムードの高まる中での世の乱れに対する皮肉でしょうか。


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