hourai
嘉永5年(1852)頃
作曲:四代目杵屋六三郎
歌詞
<二上り>
うららかな日の色そみて木の間にも
葉毎の花の綾錦重ねし縫いの伊達模様 着つつ馴れにし山姫は人の眺めの迷い草
結びかねたる空どけは いっそ浮気なそよ風や
うらみて煙る塩釜は 胸に焚く火の消えかぬる エエ何とせう
仇し仇波寄せては返す岩枕 浮名はぱっと立つ鳥のねぐらを慕う恋の山
<本調子>
萩の白露起き伏しつらき 色と香の
繁りて深き床のうち 今朝の別れに袖濡らす しょんがえ
招く芒はいたずらものよ 女郎花
あぢな気になる花の色 さめぬ桔梗の可愛ゆらし しょんがえ うつつなや
眺め尽きせぬ殿づくり げに蓬莱を見あぐれば 高き調べの松が枝に
琴弾くような鶴の足どり
解説
正確な時代ははっきりしませんが、嘉永5年(1852)頃の四世杵屋六三郎(後の杵屋六翁)の作曲で、ある人の新築祝いとしてできた曲だといわれています。
後半の本調子の出だし部分は歌舞伎の下座音楽としてもよく使われています。
蓬莱とは、不老不死の霊山のことで蓬莱山をかたどった台の上に松竹梅、鶴亀、尉姥(じょううば)をかたどったご祝儀の道具を日本では蓬莱台と呼んでいます。
曲は、遊郭を不老不死の蓬莱山つまり桃源郷に例え、遊女を仙女に見立てて、楽しい時間の中で朝になれば遊女が夢から覚めるというストーリーのいわば遊び唄です。
最初の二上がり部分でにぎやかで華やかな気分を出しています。
本調子からは「しょんがえ節」の軽いリズムになり、唄の聞かせどころでもあります。
しょんがえ節というのは、元禄期から明治にかけて流行ったといわれています。
一節の最後に「しょんがえ」という囃子詞が入るものでこれは現在でも各地の民謡に残っています。
江戸端唄の「梅が咲いたか、桜はまだかいな」は、このしょんがえ節をベースとしています。
「しょんがえ」とは「しょうがないじゃないか」の意味だといわれています。
ところで岡安の新築祝いにこの曲を演奏したすぐ後に、火事で自宅が焼けてしまったということから、この曲は岡安一派では演奏されません。
「恨みて煙る塩竃の‐」の一節がいけなかったのでしょうか。。。
同じ年に、六三郎は「松の緑」を作っていますが、二つのうちに何か共通した時代性が感じられます。
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