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老松

Oimatsu

文政三年(1820) 作曲:四代目 杵屋六三郎


” 千代に八千代にさざれ石の

 ─ 巌となりて苔のむすまで ”



歌詞

[謡ガカリ] 〈本調子〉[次第] 実(げ)に治まれる四方の国 実に治まれる四方の国 関の戸ささで通はん  これは老木の神松の 千代に八千代にさざれ石の 巌となりて苔のむすまで  松の葉色も時めきて 十返り深き緑のうち  眠れる夢のはや覚めて 色香にふけし花も過ぎ  月にうそぶき身はつながるる 糸竹の 縁にひかれて  うつらうつらと 長生の泉を汲める心地せり  まず社壇の方を見てあれば 北に峨々たる青山に 彩る雲のたなびきて  風にひらり ひらめきわたる此方には 翠帳紅閨の粧ひ 昔を忘れず  右に古寺の旧跡あり 晨鐘夕梵の響き 絶ゆることなき眺めさへ  赤間硯の筆ずさみ ここに司を しるしけり

〈二上り〉  松といふ 文字は変はれど待つ言の葉の その甲斐ありて積む年に  寿祝ふ常磐木の 調べぞ続く高砂の 名あるほとりに住吉の  松の老木も若きをかたる 恥づかしさ  ただ変はらじと深緑 嬉しき代々に相生の 幾世の思ひ限り知られず  喜びもことわりぞかし  いつまでも 清きいさめの神かぐら  舞楽をそなふるこの家に 声も満ちたつ ありがたや

[神楽舞合方]

〈三下り〉  松の太夫のうちかけは 蔦の模様に藤色の  いとし可愛いも みんなみんな男は偽りぢゃもの  拗ねて見せてもそのままよそへ  ある夜ひそかにつきあひの 雲のまがきの掛言葉  エエ憎らしい木隠れに 晴れて逢ふ日を松の色

ゆたかに遊ぶ鶴亀の 齢を授くるこの君の  行く末守れと我が神託の 告を知らする松の風

[松風合方]

富貴自在の繁栄も 久しき宿こそめでたけれ


解説

文政3年(1820)の杵屋六三郎の作曲です。同じ年にできた「まかしょ」とはかなり異質であり、謡曲「老松」を長唄化したものです。今まで芝居に従属していた長唄というものが純音楽として劇場音楽から独立した最初の曲だといわれています。

始皇帝の故事を遊郭に転じて述べていますが、内容的には一貫した筋立てにはなっていませんが、ただ、当時の流行という点から見ますと、廓情緒をうたいこむことが要求されていたことが影響しているようです。

「関のとささで」とは、関所の門を閉ざさない、すなわち太平の御代という意味です。 社壇というのは安楽寺天満宮で菅公の御廟所のこと、さらに相生の松というように場所が変わります。「松の太夫」から廓描写でくだけた感じとなり曲が終わります。


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